大判例

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津地方裁判所 昭和28年(ワ)20号 判決

原告 谷口貞勝

被告 岡田良之助

一、主  文

被告は原告に対し、別紙目録<省略>記載の建物のうち、二階一〇畳の一室を明渡すべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金五、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因を、次のとおり述べた。

原告は、昭和二七年一〇月二八日訴外津地亘から、別紙目録記載の建物を買受けたので同日所有権を取得した旨の登記をすませた。右建物は同年二月一六日、訴外亘が、その先代津地千代松の死亡によつて相続したものである。ところで、右建物のうち、二階の一〇畳間中八畳の部分は、被告において昭和二〇年頃、亘の前主千代松から賃借したものであるが、被告は昭和二六年七月頃からここでの居住をやめ、大阪市の被告の現住所に移転するに至つた。しかし右部屋には、まだ被告所有の漬物おけやむしろ類等がいくらか放置されたまま、部屋の戸にはじよおが施されて出入りができなくなつており、いまだに被告が一〇畳一室を全部占有している状態となつている。元来本件部屋のような日本式建物の一部で、しかも、もはや住居の用に供していないものについては借家法の適用はないのであるから、当該建物の所有者の交代によつて、借主と前主との賃貸借契約は消滅するものというべきであるから、被告と前記千代松間の本件部屋に関する賃貸借契約もまた消滅したものであるのに、被告はいまなお本件部屋を不法に占有して明渡さない。よつて原告は所有権に基いて、被告に対し本件一〇畳一室の明渡を求めるため本訴に及んだのである。

仮に、右主張が容れられず、原告において前記賃貸借契約を承継するものとすれば、原告には右契約の解約を申入れるについて、次のような正当事由がある。すなわち、原告は現在いなかに居住して子女を名張町内の学校へ通学させているため、いたく不便を感じ、本件建物を買入れたのであつて、これに一家を移そうとしているのである。しかし右建物の他の部屋にはすでに他の者が住んでいて、いまにわかに明渡を求め得ない事情にあるので、せめて現に人の居住していない本件部屋の明渡を受け、これを自家使用に供する必要にせまられているのである。のみならず、本件建物は腐朽がはなはだしく、この際大修繕をしなければ建物の保存にたえない。ことに被告占有の部屋は、雨もりがはげしく、畳も床も汚損しているのでとくに修繕の必要があるのに、被告は室内に雑品を放置したまま、入口に施じよおしているため、衛生検査のつど、当局から苦情を受けても手の施しようもないのである。しかるに被告はすでに二年前他に移住して、事実上部屋を明渡しているのであるから、この部屋がないからといつて、別に生活に支障はないのである。以上の事由があるので、原告は昭和二八年二月一二日被告に到達した本件訴状の送達により、被告に対して本件部屋に関する賃貸借契約の解約申入をする。よつて右契約は同日から起算して六ケ月を経過した同年八月一一日限り終了したものであるから、やはり被告は本件部屋を明渡す義務があるものというべきである。

被告は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張の事実中別紙目録記載の建物がもと訴外津地千代松の所有であつて、これを訴外津地亘が原告主張の日相続により承継取得したものであること、本件部屋について被告と訴外千代松間に原告主張の日時頃、原告主張のような賃貸借契約が成立したこと、被告が右室内になにがしかの道具類を残して大阪市に住居を移したが、現在なお右部屋を占有していることは認めるが、右契約が消滅したとの原告主張は否認する。その余の原告主張事実は知らない。

被告は昭和二六年一〇月中、大阪市に転居したのであるが、原告以外には、だれからも一度も本件部屋の明渡を請求せられたことはないし、もちろん被告から任意に部屋を明渡したこともない。被告は本件部屋から引越した後も、その管理並びに賃料支払を訴外金井寅次郎に委託して、賃料も滞りなく支払つてきた(もつとも昭和二七年一一月以降訴外亘が行方不明後は支払つていない)のであつて、右賃貸借契約は、引越後も依然けい続していたのである。原告が建物の新所有者になつたことは本件訴状の送達によつてはじめて知つたのであるが、借家法の規定は本件部屋のような賃貸借にもその適用があるものと考えるので、被告と前主間の右契約は建物の新所有者たる原告に対しても有効に存続しているから、右契約の消滅を前提とする原告の請求は失当である。

また、原告は自家使用の目的で本件建物を取得したと主張するが、もしそうだとすれば空家を買い求めるべきであつて、本件建物のようにそのうちに五世帯も居住しているような建物を買入れるが如きは非常識であり、また部屋の明渡を求めるにしても、居住に便利な階下の部屋をこそその対象とすべきであるのに、本件部屋のように二階について明渡を求めるべきものではない。原告の主張する解約申入事由はとおてい借家法にいう正当事由とはなし難いと述べた。

<立証省略>

三、理  由

別紙目録記載の建物はもと訴外津地千代松の所有であつたが、昭和二七年二月一六日同人の死亡により、訴外津地亘において相続によつてその所有権を承継したものであることは当事者間に争いはなく、成立に争いのない甲第一号証と証人泉岡半三郎の証言によると、原告は訴外亘から右建物を買受け、同年一〇月二八日所有権取得の登記をすませたことが明らかである。そして右建物の二階一〇畳間のうち八畳の部分について、被告と訴外千代松間に、昭和二〇年頃賃貸借契約が成立したことは当事者間に争いがない。従つて他に特別の事情でもない限り、右賃貸借関係は千代松の相続人である訴外亘において承継したものというべきである。そこで被告は右賃借権を以て、その後において売買により本件建物の新所有者となつた原告に対抗できるかどうかについて考えてみよう。

思うに、借家法第一条にいう建物とは、必ずしも独立の建物であることは要しないが、すくなくとも、かの互に区かくされ建物の他の部分に関係なく独立して一世帯の居住に適するように作られたアパートの一室の如く、ほぼ独立の建物に準ずる構造と社会的な使用価値を有するものでなければならないと解すべきである。しかるところ、検証の結果によれば、本件賃貸借の目的である部屋は、和式建物である木造瓦葺二階建中の二階一〇畳間のうち八畳の部分であつて、それ自体独立性のないものであることが認められる。そうだとすれば、本件部屋の賃貸借については借家法の適用のないことは他に多くの説明を要しないところであつて、被告は右部屋に関する賃貸借はその登記をしておかない限り、これを以て原告に対抗することができないことはおのずから明らかであり、従つてまた原告が本件建物について所有権取得の登記をすませた昭和二七年一〇月二八日以後は、被告において右部屋の賃借部分を占有するについて何等正当な権限を有しないものというべきである。

しかるところ、被告は大阪市に移住しながら本件部屋の賃借部分にいまなお多少の雑品を残したままこれを占有していることについては当事者間に争いはなく、検証の結果並びに前記泉岡半三郎の供述によると、本件一〇畳間の唯一の出入口である隣室との間の戸は被告によつて施じよおされ、出入りができない状態になつており、結局被告において右一〇畳室全部を占有していることが認められる。されば被告は原告に対し、右二階一〇畳室全部を明渡す義務があるものといわなければならない。

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は(借家法の適用あることを前提とするその余の点にふれるまでもなく)正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎善四郎)

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